日本の「食」について考える
「和食」がユネスコ世界無形文化遺産に登録されました。
自然を尊重する日本人の精神を現す「社会的慣習」として、地域の人々の生活や伝統とのかかわりが評価されたようです。
日本の「食」には素晴らしい面が沢山あります。
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(「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」竹田恒泰 著 より)
東京は世界一の美食都市
「ミシュランガイド東京2008」発売されたとき、最も強い衝撃が走ったのは欧州だった。なぜなら、星つきの店の数は2008年版東京が150軒で、同年パリの74軒の2倍以上に上り、総星数でも東京が他を圧倒したからである。
すべての地域において格付の基準は同一というのがミシュランガイドの建前であるから、彼らの価値観によれば、2位のパリを大きく引き離したことにより、東京は世界一の美食都市としての地位を確立したことになる。
しかも「ミシュランガイド2010」では、東京の3つ星が11軒となり、はじめて同年版パリの10軒を上回った。これにより、東京は総軒数、総星数だけでなく、3つ星の軒数までも世界最多となった。
東京の飲食店数はパリの12倍
東京がパリを上回る美食都市であることは、ミシュランの星の数だけではなく、飲食店そのものの数からもうかがえる。都市にある飲食店の数は、パリが13,000軒、ニューヨークが25,000軒であるのに対して、東京は16万軒に上る。
2010年版の東京では、星が付いた197軒のうち実に132軒が日本料理店だったことから見ると、ミシュランが東京を世界一の美食都市としたのは、日本食が高く評価された結果だと思われる。
そして、その日本食は、専門性が追及されて専門店に細分化されている。このことは日本人であれば特別なことではないが、欧米人にとっては目がくらむような未知の世界に違いない。
確かに、フランス料理、イタリア料理、中華料理など、いずれも多彩な料理文化を持っている。しかし、たとえばフランス料理店はどこまでいっても「フランス料理店」なのであって、店によって名物料理や得意料理があったとしても、専門店に細分化されることはない。専門店といえばパリの「トゥール・ダルジャン」(一つ星)が、鴨料理を専門的に出している程度で、フランスにはそのような専門店はほとんどなく、フランス以外の国でも同様で、日本のように高度に細分化された料理文化を持つ国は、他に存在しない。
これには、日本の食材、特に魚の種類の豊富さも大いに関係していると思われる。食材の種類が少ないと料理の種類もおのずと限定されるからだ。英国料理、ドイツ料理、オランダ料理、スイス料理などは種類が少なく、日本人だったら数日で飽きてしまうに違いない。まして米国には料理文化はないといっても差し支えなかろう。
しかし、それらはまだ良いほうだ。アラブの料理の種類の少なさは、米国人ですら驚くほどだ。ドバイのような特殊な都市は例外としても、およそアラブの世界では地元の料理しか口にできない地域が多い。しかも、気候条件が厳しく野菜が高価なため、おのずと料理の種類は限定されてくる。筆者はイラク滞在中に毎日、地元の名士に食事に招待されたが、どこに食べに行っても種類の少ない同じ料理しか出てこなかった。イエメンはさらにひどく、豆を煮こんだものを食べるほかに選択肢はなかった。
幅が広く、洗練された日本食
ところが、日本料理は多様である。まず、1200年以上都であった京都には洗練された日本料理の文化が積み上げられ、特に京料理と呼ばれている。他にも日本各地に独特な地方料理がある。また、給仕の形式の違いによって懐石料理、会席料理、割烹料理(板前が客の前で料理する店の形式)、仕出し料理、卓袱(しっぽく)料理(大鉢に盛って供する長崎の郷土料理)などに分かれる。
そして、料理の種類ごとに専門店に細分化されている点を挙げればきりがない。たとえば、寿司ひとつとっても、京寿司、関西寿司、江戸前寿司がある。鍋料理も種類ごとに専門店があり、その種類は、よせ鍋、ちゃんこ鍋、うどんすき、すっぽん鍋、鶏の水炊き、湯豆腐などいくらでも例示可能だ。また、食材の種類によって専門店が形成される場合もある。フグ料理、牛タン料理、まぐろ料理、湯葉料理、豆腐料理、ウナギ料理、ドジョウ料理などがその例である。その他思い付きで並べても、てんぷら、おでん、うどん、そば、お好み焼き(広島風、関西風)、もんじゃ焼き、すきやき、しゃぶしゃぶ、焼き鳥、串揚げ、とんかつ、鉄板焼きなどは通常、専門店で供されるものであって、その種類は枚挙にいとまがない。それ以外にも、鯖寿司、釜めし、牛丼、まぐろ丼、おにぎりなど個別の料理の専門店すら成立するほか、有職(ゆうそく)料理(宮廷料理)や精進料理といった特殊な料理もある。
もはやラーメンは日本料理である
ところで「日本料理とは何か」と問われると、これは明確に答えるのは難しい。なぜなら、料理は常に変化しているからである。もともと日本料理は和食を指す言葉だったろう。だが、たとえば天ぷらは17世紀にポルトガルから伝わったいわば南蛮料理が元であり、また、とんかつは明治時代にオーストラリア料理のシュニッツェルに代表されるものを、模して作られてものだった。当時これは洋食だったが、今では日本料理と呼んで差し支えない。リスボンやウイーンに行っても、日本の天ぷらやとんかつを上回るものはない。原型となった料理はいずれも原型に過ぎず、日本人の手にかかると、まったく次元の異なる料理に進化するのだ。
これは、カレーライスやラーメンも同様で、もはや完全な日本料理というべきだろう。そもそも中国人はラーメンを一杯食べて食事にするような習慣を持たない。食事の最後に小さな椀の汁入り麺を食べることはあるが、それも日本のラーメンとは似ても似つかないものである。日本には札幌ラーメン、喜多方ラーメン、博多とんこつラーメン、熊本ラーメンなどなど、日本各地に様々な特徴的なラーメン文化がある。これを知った中国人はみな驚くらしい。
このように、日本人は世界各国の料理を取り入れ、日本独自のかたちに進化させ、自他ともに認める日本料理に昇華させてしまうのである。
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このように、日本の食文化は多彩で、繊細です。日本人であることに誇りを持ちたいものです。
日本の食文化を大事にしたいものです。