生きる力は、母の手が育む
大阪大学医学部の先生に玉井克人さんという方がいます。玉井医師は「表皮水ほう症」の専門家で、この病気は全国で数百名ぐらいの難病中の難病と言われているそうです。
通常、私達の皮膚は3層からなっていて、それがくっついているそうですが、「表皮水ほう症」はそれが不十分で、夜、寝返りを打つだけで、皮膚がずれて破れてしまう。
そのためいつも水ほうができるので、それを一つひとつ専用の針でつぶし、軟膏を塗らねばならない。これを朝夕2回やるそうです。そういう難病なのです。
玉井医師は、この研究と治療をずっと続けてきて、信じられない現象に気づきます。
それは、この難病を背負っている子供たちが一人の例外もなく、いつもみんな笑顔で実に明るいというのです。
あれだけの難病、しかも毎日、激痛と闘っている。いつ治るかも分からないのに、なぜこんなにも明るく、逆にこちらが癒されるような笑顔を見せてくれるのが、不思議でしょうがなかったといいます。
ところが、その理由がわかったとのことです。
それは、母と子の触れ合いによって活性化される「スキンシップ遺伝子」の働き、なのだそうです。
要するに、彼らは生れた瞬間から毎日毎日、朝夕2回、母が水ほうを潰して、全身手のひらで軟膏を塗ってやる。
その母の手のひらが遺伝子に働きかけ、情動の発達を促して、あの優しい笑顔を生み出していたのです。
それを玉井医師は「スキンシップ遺伝子」と呼んでいます。
難病やハンディという大変な逆境を背負っていても、人を癒し、明るく世の中を生きる力を生み出すのは、母の手のひらなのです。
目に見えぬ母の愛情には、それだけの力を与えることが科学でも証明されたのです。